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Venezuela Analisis

過去に作成したレポートの一部を掲載しています。

マドゥロ大統領、重要3閣僚の交代を発表

2017/08/13

(2016年8月執筆)

201682日(火曜)、マドゥロ大統領は自身のテレビ番組『コンタクト・コン・マドゥロ』にて、重要3閣僚の交代を発表しました。

 

内務司法平和相はゴンサレス・ロペス氏(159月から同職)からネストル・リベロール氏へ交代しています。

 

ネストル・リベロール氏は国軍大将(前任のゴンサレス・ロペスも軍人出身)で、チャベス在任中(201210月~20134月)に内務司法相を経験しています。

リベロール内務司法平和相の前職は麻薬対策総長だが、先日、米国から麻薬取引の容疑で起訴されたばかり。

なお、前任のゴンサレス・ロペス氏も野党派の抗議行動を弾圧したとして米国から批判を受け米国内の資産凍結などの制裁が課せられています。

 

 

続いて、陸運公共工事相はアルフレッド・ナバロ氏(1512月から同職)からリカルド・モリナ氏へ交代しました。モリナ陸運公共工事相は社会主義領土担当副大統領も兼任することになります。

 

リカルド・モリナ氏は軍人出身ではなく、マドゥロ大統領が就任する以前(2010年)から住宅相でした。

20158月に国会議員選挙へ出馬し、1512月に国会議員当選、161月から与党国会議員でした。

 

モリナ氏は住宅相の頃に『反対派に投票した公務員は解雇する』と、あからさまな公務員の投票意思を侵害する発言をして、反対派から批判を受けたことのある人物です。

なお、前任のアルフレッド・ナバロ氏は陸運公共工事省副大臣からの昇格だったが、テレビの露出は少なく、政治家としての手腕は今一つだったという評価があります。

それに対してリカルド・モリナ氏は強権的なイメージも手伝い与党内、特にインフラ分野で強い権力を持っている人物として知られています。

 

そして、多くの人にとって一番大きなニュースは、ミゲル・ペレス・アバッド商工業相からカルロス・ファリア氏への交代と思われます。

 

カルロス・ファリア氏はヘスス・ファリア貿易外国投資相の兄弟で、2011年に商工業相の軽工業・中間工業担当次官に就任しました。

 

父はベネズエラ共産党(PCV)創設者の一人。ロシア(当時はソビエト連邦)に留学経験があります。2012年に一時SIDOR社長を兼務し、20151月にロシア・ベネズエラのハイレベル委員会の執行役も兼任。自動車セクター社会主義公社の代表でもあります。

 

ペレス・アバッド氏は商工業相であると同時に経済担当副大統領でもあります。最近の活動は商工業相というよりも経済担当副大統領としての活動が目立っていました。

 

3閣僚の交代が記された82日付の官報ではカルロス・ファリア氏が商工業相に就任したことは公布されていませんが、ペレス・アバッド氏が経済担当副大統領職を交代するとは書かれていません。つまり、制度的に言えば同氏はまだ経済担当副大統領ということになります。

 

ただ、ペレス・アバッド氏も自身のツイッターで閣僚職を去ると思えるようなツイートを残しています。

 

正確な情報は追って明らかになると思いますが、経済担当副大統領も事実上解任された可能性が高い。

なお、ペレス・アバッド氏が経済担当副大統領職も解任されたとしても、カルロス・ファリア氏が同職を引き継ぐかは不明。

 

 

<なぜペレス・アバッド氏は解任されたのか>

 

前述の通り、ペレス・アバッド氏が経済担当副大統領職まで解任されたかどうかは定かではないが、解任された可能性が高いのでその前提で以下を記載します。

 

ペレス・アバッド氏解任の一番の要因は『為替制度』と考えられます。

 

ペレス・アバッド氏は為替レートの是正により経済のゆがみを正す方法を志向していました。そのためにはインフレもある程度は容認との考えだったと理解しています。一方で貧困層にはインフレの影響を抑えるためCLAPを通して生活に必要な最低限の配給をする考えであったと思われます。

 

同氏が20162月に経済担当副大統領に就任して約1カ月後の20163月に同氏は新為替制度DICOMを公表。

 

DICOMは4月から運用を開始する予定でしたが、5月に入り、技術的な調整のため稼働までに60日必要と発表。そして7月末に更に60日間が必要との見解を示した。技術的な問題というよりも政権内部での合意が図れなかったと考えるのが妥当でしょう。

 

なお、DICOMが正式に稼働していない現在はSIMADIの運用が継続されています。

 

SIMADI20152月に運用が開始されました。20155月以降は1ドル200ボリバルで固定レートに近かったが、20163月からボリバル安が進行し77日には1ドル640ボリバルまで下落しました。しかし、同日以降は1ドル640ボリバル付近で為替レートが停止しています。並行レートは1ドル1,000ボリバル程度で取引されており、需要と供給の関係で言うと、まだボリバル安が進行しなければいけないはず。

 

SIMADIレートの切り下げが始まった当初から中央銀行および一部の軍部は同政策に反対していました。

SIMADIレートの下落が止まった背景として、中央銀行および軍部がマドゥロ大統領に進言したことが原因との情報もあります。

SIMADIレートの下落はボリバル通貨の価値低下を意味し、インフレの原因の一つになります。

 

インフレ高騰による国民の不満拡大を懸念する(あるいは、為替レートのゆがみが無くなることを懸念する、という意見もあり)上記派閥が大統領に進言したという話は説得力があります。

 

また、SIMADIレートの下落が停止したのとほぼ同時に、マドゥロ大統領から『ミシオン・アバステシミエント・ソベラノ(国家充足プロジェクト)』が発表され、軍部主導の食料品、生活資材統制強化が打ち上げられました。

 

一方、ペレス・アバッド氏は『為替制度をより柔軟化させて、民間セクターが外貨を投じやすいようにする』と述べ、再び為替レートの下落を進めるような発言をしており、権力内で意見の相違が生じている印象がありました。

 

なお、マドゥロ大統領がカルロス・ファリア氏の商工業相登用を発表した時に『ミシオン・アバステシミエント・ソベラノ』をサポートするためにカルロス・ファリアのような専門性の高い人物が必要だと述べており、同氏は軍部をサポートする(軍の下に位置する)位置付けであることを暗に示したように思える。

 

また、ペレス・アバッド氏は過去に接収した国営組織を民間に戻すことにも前向きな発言をしていました。

そして、同氏に代わり商工業相に就いたのが2008年に政府が接収した国営製鉄公社(SIDOR)社長のカルロス・ファリア氏であるのは何か理由があるのかもしれません。

 

最近は、CLAP代表のフレディ・ベルナルなど与党からも『過去の接収は失敗だった』という意見がでているが、カルロス・ファリア氏が商工業相に就いたことで与党内部でも接収に対して否定的なトーンが抑えられるのではないかと想像します。

 

 

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