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2016年のベネズエラの石油輸出収入を予測する
2017/06/26(2016年5月執筆)
<2015年の石油輸出額は340億ドル程度>
ベネズエラの外貨収入の9割以上は石油輸出と言われています。しかし、ベネズエラの統計で分かるのは輸出総額のみで、どの国に向けて、いくら石油を輸出したかを知ることができません。
どの国にいくら原油、石油製品を輸出したかを知るには他国の輸入統計データベースから原油(HSコード2709)、石油製品(HSコード2710)の輸入額を調べるのが一番確実です。
このデータの欠点は、キューバ(2014年、2015年)やジャマイカ(2015年)など貿易統計が公表されていない国の情報が含まれないこと。また、輸入統計の合計なのでCIF(商品代+輸送費、保険料込の料金)が多いと思われます。とはいえ、輸送費、保険料込の料金がそれほど大きな金額になるわけではないし、米国・中国・インド・シンガポールなど主要な輸出先は含まれており統計の精度は高いと言えます。
このデータによると2015年の各国の原油・石油製品輸入合計額(ベネズエラにとっては輸出額)は336.8億ドル。前年は656.7億ドルだったため48.7%減少したことになります。
下落の主な要因は当然のことながら原油価格の下落。2014年のベネズエラ産原油平均価格が88.72ドル/バレルであったのに対して、2015年の同価格は44.65ドル/バレルと前年比49.5%下落しており、輸出額と原油価格の相関は明らか。なお、ITCのデータベースから抽出された336.8億ドルは、ベネズエラ中央銀行(以下、中銀)が公表する石油部門輸出額とも近い。
以前、2015年第3四半期まで公表されている中央銀行の輸出統計をベースに2015年通年の石油部門輸出額を347.3億ドルと予想しました。中央銀行が公表するこの数字にはキューバ、ジャマイカなどが含まれているのでITCデータとの10億ドル強の差額はおおよそ説明できると思います。
<2015年の石油輸出による外貨キャッシュインは270億ドル程度>
では、2015年はベネズエラに336.8億ドル(+キューバ、ジャマイカへの輸出額)程度の外貨が石油輸出の対価として流入してきたかと言えば、それは違います。
まず、ニカラグア、ドミニカ共和国、ジャマイカなど中米カリブ海の友好国はベネズエラとエネルギー協定を締結しており、ベネズエラは輸出した代金の6割くらいしか回収できていません。回収できていない売掛は15年~25年の長期返済になります。
また、キューバについてはエネルギー協定を更に強化した相互協力協定を結んでおり、ベネズエラが輸出した石油は代物・代サービス(医療サービスなど)で返済するのが基本。つまり、キューバからのキャッシュインは期待できません。
次に、中国。中国はベネズエラに多額の融資をしておりその返済は基本的に石油輸出による代物返済です。公式な数字はありませんが返済額は年間60~75億ドル程度と考えられます。よって、2015年通年で中国向けに輸出された65.9億ドルはキャッシュになっていないと考えるべきだ(仮にキャッシュとしてベネズエラに対して支払われたとしても、中国への債務の返済に充てられる)。
なお、2015年の輸出統計に計上される時期と、実際に支払われる時期にタイムラグがあります。つまり、2015年12月に輸入通関した石油の支払いは2016年になるでしょう。一方で、2014年12月に輸入通関した石油の支払いは2015年に着金しているはずなのでオフセットされているはず。よって、本稿ではタイムラグによる入金誤差は考えない。
上記の前提を考慮すると、ベネズエラにキャッシュとして流入する石油輸出は270億ドル程度だったと思われます。
<2016年の石油輸出額は220億ドル~300億ドル程度>
前述のとおり、原油価格と石油輸出額には高い相関関係があります。そこで、2016年の石油輸出による収入を下表の通り予測してみました。
2016年も4ヵ月が経過しました。ベネズエラ産原油は現在34.43ドル/バレル(4月25日~29日)で取引されています。2016年の平均価格は27.46ドル/バレル。
原油価格はすでに底値をついたとの意見が多く、上昇傾向にあるため今後は暫時的に上がると期待したいが、再び下落が始まり2016年の通年の平均価格が27.46ドル/バレルで留まる可能性も否定できません。
そうであれば、2016年の年間の石油収入は約200億ドルになるでしょう。また、このまま8カ月の間順調に原油価格が上がり続けるようであれば年間平均価格が45ドル/バレルくらいまでは上がるかもしれません。
原油価格を予測することはほぼ不可能だが、今の様子を見る限り一番あり得そうなのは30ドル~40ドル/バレルの圏内ではないか。そうであれば220億~300億ドル程度が(通関上の)石油輸出額になります。ただし、ここからキューバ、中米カリブ海諸国、中国などキャッシュが入ってこない部分を差し引かなければいけません。そして、残りで対外債務(債券、直接借入)を返済しなければいけません。
もちろん、債務返済以外の支払いもあります。石油サービス大手のシュルンベルジュやハリバートンはベネズエラ事業で支払いに遅れが出ていることを理由にサービスを縮小するという話があります。エニもPDVSAによる支払いの遅延に懸念を示しています。このように、重要な取引先への支払いに遅れがでるほどPDVSAはキャッシュフローに余裕がない。
この状況では、PDVSAが中央銀行に外貨を売却している余裕はないでしょう。
しかし、中央銀行は中央銀行で政府が過去に積み上げた債務を返済しなければいけません。深刻なキャッシュ不足の中で対外債務を履行するのであれば一番効果的な方法は財・サービス輸入の減少です。
最近、バンクオブアメリカがベネズエラの輸出相手先6カ国(米国、中国、ブラジル、コロンビア、ドイツ、メキシコ)からの輸入が2016年に入り激減しているとのレポートを出しました。
この調子だと2016年の輸入額は前年比30%減もありえそう。
もちろん、この輸入減で国内生活者の生活苦は一層苦しくなります。国内産業は原材料が輸入できないことで生産稼働率が相当落ちています。発電施設をメンテナンスするための費用もないので、計画停電をして国民に我慢を求めている。他、外貨不足の悪影響は上げればきりがありません。
この状況に対して、政府閣僚の主張を端的に表現すると以下の通り。
『今までベネズエラの民間セクターは石油収入に寄生し過ぎていた。CADIVIという外貨支払いスキームを利用し、外国口座に大量の資金を残した。もともと、その外国口座に溜まっている資金は石油収入(あるいはベネズエラ政府が外国から借りたお金)で、ベネズエラに投資されなければいけなかった。しかし、同国に投資されず国内産業が発展しなかった。民間セクターは政府が外貨を割り当てないから原材料が輸入できないと言っているが、彼らが外国に大量の資金を持っていることは明らかだ。原油価格が下落した今の状況で政府から外貨割当を求める方がおかしい。原油価格が下落した今こそ、彼らが過去に蓄財した資産を使って政府が割り当てる外貨なしで国内産業を発展させて生産を継続しなければならない。』
接収リスク、価格統制、為替管理制度など政府が生み出した不安要素が企業の投資促進を抑えたことは間違いないなく大いに反論の余地がある主張だが、完全に間違っているとも言えない気はします。